不動産投資ニュース
企業が株主優待を導入するメリット、デメリットを考える(1)
FINDING FUNDS編集部です。
先日、食品業界でご活躍されている方とお話をする機会がありました。私が所属する証券アナリスト協会では、定期的にアナリスト向けの企業説明会が開催されるのですが、その説明会をきっかけに繋がりができました。その部長と初めてお会いしたのは、今から1年ほど前のことです。
その会社は、食品業界の中でも飲食店向けに食材を提供されており、コロナ禍で厳しい経営状況に陥りました。経費を見直し、徹底的にコスト削減をする一方、事業環境を見極めて成長事業に積極的な投資をされていました。説明会で、このような経営状況の変化を丁寧に発表される社長の姿を見て、私は企業のファンになりました。その社長経由で部長と知り合い、その後も定期的に情報交換をさせていただいています。
今回は部長と久しぶりのご面談であり、ワクワクしていました。応接室で部長にご挨拶を終えた後、「コロナの前後を振り返り、社内で変化したことはありますか。」と質問しました。すると、「コロナ前は食品関係の事業のみに集中して事業展開を考えていましたが、コロナ後は食品に限らず広い事業領域への進出を検討するようになりました。一つに集中するのではなく、柔軟な考え方を持つようになったことが大きな変化だと思います。更に、株価が大きく落ち込んだことをきっかけに、今まで以上に株主の存在を意識するようになりました。」と明るく話をされていました。株主目線で企業を応援していた私にとって、嬉しいコメントでした。
ちなみに、こちらの会社も株主優待を導入されています。内容は、食品会社ならではの商品詰め合わせギフトです。せっかくなので、部長に株主優待制度の導入についてお話も伺いました。すると、企業の視点から見た株主優待のメリット・デメリットを教えていただくことができました。今回のコラムでは、部長から伺ったお話を参考に、株主優待制度について考えていきます。
企業がファンを増やすとどうなるのか
私の質問に対し、部長が教えてくれたのは、カゴメ【2811】の株主優待制度の取り組みでした。
カゴメは調味食品の国内大手企業であり、ケチャップやトマトソース、野菜ジュースなど、トマトに関する商品を提供しています。実はトマトが日本で食べられるようになったのは、西洋文化が一気に花開いた明治時代からです。その立役者となったのが、カゴメ創業者の蟹江一太郎氏です。彼は1899年に西洋野菜(トマト、キャベツ、レタスなど)の栽培に挑戦し、日本で初めてトマトの発芽を成功させました。西洋ではトマトを加工して食べていることを知った一太郎氏は、トマトピューレ、トマトケチャップなど、トマトに関する商品を次々と世に送り出します。
カゴメの企業理念は、「感謝、自然、開かれた企業」です。100年を超える企業の歴史において、生産者や消費者など企業を取り巻く様々な関係者に対する想いが、この企業理念に表れていると言えます。特に3つめの「開かれた企業」というキーワードに注目です。カゴメは野菜を中心とした調味食品が商材であり、顧客は私たち一般消費者です。その消費者と深く、長い関係作りをするために考え出されたのが、『株主10万人構想』でした。
これは、文字通りカゴメの株主数を10万人にするという構想なのですが、構想を立ち上げた2001年の株主数は9,000名余り。当時は到底達成できない目標だと周囲から思われていました。しかし、2005年には株主数10万人を達成し、今や19.6万人(2022年末)と着実は増えています。不可能と思われていた構想を達成した背景には、カゴメの『ファン株主』作りに対する弛まぬ努力がありました。
構想を立ち上げた2001年には、株主優待制度を導入されました。今は、半年以上継続して保有している株主に対して、年に一回、2,000円相当の自社商品詰め合わせギフトが送られます。下に100~999株を保有していると貰える商品のラインナップを記載しますので、ご覧ください。
商品の詰め合わせには、必ずその年の新商品を入れて、カゴメのトレンドを発信しています。他にも株主同士の交流会や料理教室の開催、夏野菜の収穫体験や工場見学など、「開かれた企業」を目指して、イベントを積極的に開いています。カゴメは自社商品や会社に対して好意を持って株主となってくれる投資家を「ファン株主」と呼び、ファン株主とコミュニケーションをするためのツールとして株主優待を活用しているのです。カゴメによると、一般消費者とファン株主の商品購入金額を比べると、10倍以上の開きがあるそうです。
ファン株主を獲得すると、本業の売上にも少なからず影響を与えます。長期的な関係を紡ぐため、株価を安定させる効果があるという内容の実証研究も進んでいるほどです。このように株主優待には良い面が多くあると思えますが、冒頭の部長によると、デメリットもあるようです。次回のコラムでは、株主優待制度を導入するデメリットについて確認していきましょう。
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この記事を書いた人
ファイファン編集部中の人
証券会社での飛び込み営業から不動産テックベンチャーへ転職。現在は金融と不動産、ITを掛け合わせた専門家となるべく、日々奮闘中。
FUNDING FUNDSのコラムを通じて、日本全体の金融リテラシーを向上させることが夢。趣味は街歩きとカフェ巡り。
日本証券アナリスト協会認定アナリスト / 不動産証券化協会認定マスター
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