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ESG投資が社会にもたらすもの

FINDING FUNDS編集部です。

夏休みになると塾へ通っていた頃を思い出します。中学校3年生の時は受験に向けた追い込みとして夏期講習に邁進していました。それまで本格的に勉強をしてこなかった私にとって、塾での勉強は刺激でしたし、同じ志望校を目指す友達と切磋琢磨できる環境は心地良かったことを覚えています。私が通っていた塾では、定期テストの成績に応じたクラス替えが半年ごとにありました。クラス発表は私にとって一大イベントであり、プロジェクターに映し出された自分のクラスを見て一喜一憂していました。夏期講習中のクラス発表後に、校長から簡単なスピーチがあったのですが、その内容を今でも覚えています。

スピーチは、生徒に対しての激励から始まり、中盤から受験が全てではないこと、人生において自分がなしえたいことを探してほしいというエールが送られました。そして締めくくりに伝えられたのが、「不都合な真実」という映画の内容でした。元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏が脚本・出演を担当し、2006年に上映されたドキュメンタリー映画で、この映画をきっかけとしてゴア氏はノーベル平和賞を受賞しています。作中では、ゴア氏が地球温暖化を訴える講演と彼の生い立ちが交わり、将来の地球環境を再考させられる内容となっています。

校長は「不都合な真実」の内容を交えて、これからの社会でなすべきことのヒントにして欲しいとスピーチを締め括りました。幼い頃から環境問題に敏感だった私は、校長のスピーチが忘れられず、その後も地球環境を守るために何をなすべきかと考えるようになりました。その後、私は無事に志望校に入学し、大学ではファイナンスを学び、投資を通じて社会に貢献したいと証券会社に入社することになります。校長のスピーチが私の人生のポイントになったと感謝しています。

社会、特に環境に貢献する仕事は、何も難しい理系の研究をするということだけではありません。実は投資をすることでも社会貢献することはできます。それがESG投資です。今回のコラムで具体的な内容を見ていきましょう。

投資を通じて社会へ貢献する

ESGは、Environment(環境)・Social(社会)・Governance)の頭文字を合わせた言葉です。この言葉は、2005年の始めにコフィ・アナン国連事務総長が機関投資家(いわゆるプロの投資家です)に対して、投資先を決める際にESGの要因を考慮するよう呼びかけたことがきっかけとなり広がりました。国連を中心に策定されたのが責任投資原則(PRI)であり、世界各国の機関投資家がPRIに賛同しています。PRIは下記の6つの原則によって成り立っており、機関投資家はこの原則にコミットすることを署名します。

① 私たちは投資分析と意志決定のプロセスにESGの課題を組み込みます。
② 私たちは活動的な(株式)所有者になり、(株式の)所有方針と(株式の)所有慣習にESG問題を組み入れます。
③ 私たちは、投資対象の主体に対してESGの課題について適切な開示を求めます。
④ 私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるように働きかけを行います。
⑤ 私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します。
⑥ 私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します。

ちなみに過去コラムで登場したGPIFも2015年にPRIに署名しています。GPIFは世界で最も大きな資金を投資しており、その運用額は219兆1,736億円(2023年第1四半期末時点)にも及びます。別名「資本市場のクジラ」とも呼ばれる彼らがPRIに賛同したことは、日本ひいては世界の機関投資家に大きな影響を与えました。

ここで、PRIの公表資料を基にESGの要因の一例を見てみましょう。

(E) 気候変動、資源の枯渇、森林減少
(S)人権、労働条件、従業員関係
(G)役員報酬、取締役会の多様性、税務

機関投資家は、莫大な資金を運用しています。仮にESGを考慮しない企業の株式や債券に投資をすると、どのようなことが起きるでしょうか。環境破壊を繰り返す企業、不当に安い賃金で従業員を働かせる企業、納めるべき税金を隠す企業に投資資金が流れ、彼らの活動を後押しする結果となってしまいます。長期的な目線で考えると、私たちの社会にとって不必要な企業が残り、本来活躍すべき企業が育たない状況に陥ります。

もちろん、そんな未来は誰しも望んでいません。GPIFはなぜESG投資をするのかについて、「資本市場は長期で見ると環境問題や社会問題の影響から逃れられないので、こうした問題が資本市場に与える負の影響を減らすことが、投資リターンを持続的に追求するうえでは不可欠といえます。」と述べています。機関投資家は、ESGの要因を考慮して投資先を選定することで、長期的な目線に立ったときに大きなリターンが得られると考えているのです。

私たちもESG投資を実践することができます。単に儲かりそうという視点ではなく、投資先の企業が私たちの社会をどのように良くしようとしているのか、そういった目線で考えていくと、投資を通じて社会に貢献することができます。次回のコラムでは、実際に企業がESGに対して取り組んでいる内容を見ていきましょう。

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ファイファン編集部中の人

証券会社での飛び込み営業から不動産テックベンチャーへ転職。現在は金融と不動産、ITを掛け合わせた専門家となるべく、日々奮闘中。
FUNDING FUNDSのコラムを通じて、日本全体の金融リテラシーを向上させることが夢。趣味は街歩きとカフェ巡り。
日本証券アナリスト協会認定アナリスト / 不動産証券化協会認定マスター